派手なことをやる前に、地味な確認をした

会社でClaudeのトライアルが始まって、最初に手をつけたのは業務の自動化ではなかった。ひたすら地味な動作確認だった。

どのフォルダなら読めるのか。Excelは開けるのか。作ったファイルはどこに置けるのか。チャットの履歴は取ってこられるのか。ひとつずつ試して、結果を書き留めていく作業に丸一日使っている。

なぜ最初にこれをやったかというと、AI活用の記事をいくら読んでも、自分の会社の環境で同じことができるとは限らないからだ。会社にはそれぞれのファイル置き場があり、セキュリティの設定があり、契約している範囲がある。記事の通りにやってみて「うちの環境ではできませんでした」が何度も続くと、たいてい心が折れる。

だから先に地図を作ることにした。結果的に、これが一番効いた。以降に作った自動化は全部、このときの調査結果を前提に設計している。

この記事では、そのとき分かったことをそのまま公開する。同じように社内でAIを触り始めた人が、遠回りせずに済めばいいと思っている。

大前提:Coworkは「PCの中の別の小部屋」で動いている

個別の話に入る前に、ひとつだけ理解しておくと全部が繋がる前提がある。

Claude Coworkは、パソコンの中に用意された隔離された作業スペースの中で動いている。技術的にはLinuxのサンドボックスと呼ばれるものだが、イメージとしては「自分のPCの中に、もう一つ小さな部屋がある」と思えばいい。

この小部屋は、外の世界から切り離されている。だから何でも勝手に触られる心配がない代わりに、こちらが「この棚は見ていいよ」と許可したものしか手が届かない

これを分かっていないうちは、「できる/できない」が脈絡のない豆知識の羅列に見えてしまう。逆に分かってしまえば、ほとんどの制約は「その小部屋から手が届く範囲か」で説明がつくようになる。

できたこと

自分の環境で実際に動いたのは、次のような操作だった。

やりたいこと 結果 補足
指定した作業フォルダの読み書き ローカルもOneDriveも可。複数のフォルダを指定できる
Excelファイルの読み取り・加工・保存 手元に保存されているファイルであれば可
PDF・Word・Excel・PowerPointの作成 日本語フォントも書式もそのまま反映された
Teamsの個人チャット・グループチャットの検索と閲覧 過去のやり取りを探してもらえる
Box上のテキスト系ファイルの読み書き Boxへのアップロードもできた
ウェブ検索

ファイル作成については、想像していたより出来がよかった。表の罫線、セルの色、列幅、文字色まで指定通りに反映される。報告書のドラフトを作らせて、そのまま体裁を整えた状態で出してもらえるレベルだ。

このとき意識してやったのは、「何を使って作られたか」まで記録に残すことだった。PDFはweasyprint、Wordはpython-docx、Excelはopenpyxl、PowerPointはpython-pptx——ここまで書いておくと、次に同じことをやるときに調べ直さずに済む。地味だが後々かなり効いた。

この横文字はAIが裏側で使っている道具の名前で、意味が分からなくても全く問題ない。自分も中身は分かっていない。「こういう名前を控えておくと後がラクになる」とだけ知っていれば十分だ。

できなかったこと

一方で、はっきり無理だったものもある。

やりたいこと 結果 理由・状況
指定していないローカルフォルダを読む そういう仕様。安全のための制限
ネットワーク共有フォルダを直接指定する ただし回避策あり(後述)
Excelのマクロ(VBA)を動かす 小部屋の中にExcelそのものが無いため
SharePoint上のExcelを直接読む 手元にコピーすれば読める
SharePointへのファイルのアップロード 読み取り専用の扱いだった
Teamsのチャンネル投稿を取得する 接続設定の権限による。管理側に要望中
ブラウザ(Chrome)を自動で操作する 「Claude in Chrome」の導入待ち。実装されれば解決する見込み

このうち「マクロが動かない」は、言われてみれば当然なのだが最初は驚いた。小部屋の中にはExcelというソフト自体が入っていないので、ファイルの中身は読めても、Excelの機能を使う処理は動かせない。ファイルを「データとして」扱うのと、「Excelで開く」のは別物だということだ。

一番ハマったのは「見えているのに見えない」問題

調査の中で一番わかりにくく、原因究明に時間を取られたのがこれだった。

同じファイルなのに、どうやってアクセスするかによって、見えたり見えなかったりする。

具体的にはこうだ。ネットワークドライブやBoxの同期フォルダに対して、ある方法で中身を見ようとすると「そんな場所は存在しない」と返ってくる。ところが別の方法——ファイルを読む機能を直接使うと、何事もなかったかのように中身が読める。

最初は完全に混乱した。「さっき読めたファイルが、なぜ今は無いことになっているのか」と。

原因は、小部屋からの経路が一本ではないことにあった。プログラムを動かして操作する経路と、ファイルを読み書きする機能を使う経路では、見えている世界が違う。前者からは存在しないフォルダが、後者からは普通に見える、ということが起きる。

ここから得た教訓はひとつ。エラーが出ても「できない」と即断せず、別の経路を試す。 これは以降のトラブルでも何度も役に立った。

できなかったことは、たいてい回避できる

調査でもうひとつ分かったのは、「できない」の多くはやり方を変えれば通るということだった。

やりたいこと 素直にやると 回避策
ネットワーク共有を扱う 直接の指定は不可 ドライブ文字を割り当てて、作業フォルダとして追加する
Box上でExcelファイルを作る 直接作成は不可 OneDriveで作ってからBoxに同期させる
ネットワーク上のPDFを処理する 取り込めない Power Automateで手元にコピーしてから処理する

最後の項目は、その後の自分のやり方を決定づけた発見だった。

AIができないことは、他のツールにやらせればいい。 自分の場合はPower Automateと組み合わせて、ファイルの運搬は別のツール、中身の判断はAI、という分担にした。この考え方に切り替えてから、「AIにできないから諦める」という場面がほとんど無くなった。

設定まわりで、先に知っておきたかったこと

調査のついでに分かった細かい話も書いておく。

  • 会話(セッション)を削除する機能は無い。 消したいときは「アーカイブ」で一覧から隠す形になる
  • 作業フォルダごとのルールは、そのフォルダに置いたファイルに書く。 毎回同じ説明を書かなくて済むので、決まりごとは早めにここへ移したほうがいい
  • 全体に効くルールは、設定画面の指示欄に書く。 名前や口調、共通の方針はこちら
  • 一定時間でログインが切れる。 作業の途中で急に動かなくなったら、まず再接続を疑う

特に3つ目と4つ目は、知らないと「なぜか昨日と挙動が違う」と悩むことになる。

これから試す人へのおすすめ

同じように社内でAIを触り始める人に、順番として勧めたいことが4つある。

1. いきなり本番業務をやらせない

まず自分の環境の地図を作る。遠回りに見えて、これが一番の近道だった。

2. できたことは「何を使ったか」まで記録する

「PDFが作れた」だけだと、次に作るとき同じ試行錯誤を繰り返すことになる。使われた道具の名前まで残しておくと、二度目からは一発で通る。

3. できなかったことは、必ず回避策とセットで記録する

ただの失敗リストは後から見返さない。「これは無理。ただしこうすれば通る」まで書いてあるものだけが、後で役に立つ。

4. 調べた結果は、次回も参照される場所に文書として置く

AIとの会話は、次に新しく始めたときには引き継がれない。同じ質問を何度もしないためには、結果を文書にして「作業フォルダに置いておく」のが確実だった。従量課金の環境なら、これは費用の節約にも直結する。


地味な作業ではあったが、ここに時間を使ったおかげで、以降は「これはたぶんできる」「これは回避策が要る」と当たりを付けて動けるようになった。自動化そのものより、この地図を作った一日のほうが効いたと思っている。

※この記事の内容は2026年8月時点の、自分が使っている環境での結果です。設定・契約形態・バージョンによって変わるので、実際に判断するときは自分の環境で確認してください。